2010年11月6日土曜日

赤いハート (ファン小説)

 ああ とつぜんかわるのよ
 こころがかわる
 思い出す 愛と 優しいこころを
 ああ いまは よくわかる よくみえる
 うれしいんだ ルルララララルララ

 ローラ姫は、入浴してさっぱりしました。
ロールパンナが浴槽の準備をしてくれたり、髪を洗ってくれたりしたので、まるで本当のお姫様のようでした。
その後、寝室のクローゼットに入り、ロールパンナと一緒にたくさんのクッションをベッドに運びました。
ベッドはとても大きかったので、全部並べてもまだ十分に二人が寝る場所がありました。
ローラはベッドに入り、うきうきしていました。
何しろ、このお城にお客様が泊まるということは、初めてだったからです。
まして親友を泊めるなんていうことは。

 気がつくと、ロールパンナはじゅうたんの上に寝そべっていました。
「…ロールパンナ?」
 なぜ、一緒にベッドを用意したのに、じゅうたんの上に寝るのだろうと、ローラは怪訝に思いました。
「一緒に寝ようよ」
 とローラは 言いました。
しかし、ロールパンナは、
「わたしは、ここでいい」
 と、ベッドに入ろうとはせず、マントを自分の身体に巻きつけました。
ロールパンナは今までずっと、洞穴や草原で寝ていたのでふわふわのベッドで寝るのが、なんだか恐かったのでした。
そんなロールパンナにとっては、じゅうたんでさえとても気持ちのいい寝床に思えたのでした。

ローラは口を真一文字に結んで、しばらくロールパンナを見ていましたが、持っていたクッションをロールパンナに投げつけました。
次から次へ、いくつもいくつも、投げました。
どんどん投げたものですから、ロールパンナはクッションに埋もれて見えなくなってしまいました。
我に返ったローラは、なんて事をしてしまったのだろう、とすぐに謝ろうとしました。
するとやわらかいクッションが、ローラの顔にぶつかりました。
ロールパンナが、クッションを投げ返してきたのでした。
その表情は楽しそうでした。
それを見るとローラはいっぺんに元気になりました。
「やったなぁ!」
 とクッションを拾い、投げ返しました。
そして、クッションの中でもがいているロールパンナに向かって飛びかかりました。

ロールパンナの身体は勝手に反応していました。
あっという間にローラを組み伏せていたのです。
あわててロールパンナは手を離し、
「すまない、大丈夫?」
 と聴きました。
ローラは、
「これくらい、へっちゃらさ」
といいましたが、やっぱり痛そうでした。
「私はどこにいても迷惑をかけてしまうな…」
 とロールパンナは寂しそうにいいました。
ローラはあわててロールパンナの手をとり、
「誰だって間違える事はあるよ」
 とロールパンナを慰めました。
それでもロールパンナは少し寂しそうでした。
「さぁ、もう寝ようぜ」
 とわざと元気よく言って、
「ロールパンナも、ベッドで寝ろよ。あたいがついているから寂しくないだろ?」
 と冗談めかして言いました。
ロールパンナは
「うん…」
 とうなづきました。

 ロールパンナはふかふかのベッドの中で身体を硬くしていました。
それに気がついたローラは、そっとロールパンナの手を握ってあげました。
ロールパンナはちょっと驚いた顔をしましたが、息を大きく吸って、はきました。
そして、にっこり笑って、
「暖かい…」
 と言いました。
ローラも、微笑みました。
「まるで、雲の中で寝ているみたいだ」
「そうさ、ここはうきぐも城だからな」
「でも、雲よりもずっと暖かい」
「ふたりで寝るとよけいさぁ」
ロールパンナは、微笑みながら、なぜだか泣きたいような気持ちになりました。
今まで誰かと一緒に、他人に心を開くことはほとんど無かったのです。
「ローラ…」
と呼んでみました。
「ん?」
「ローラ?」
「なんだい?」
「…ローラ…」
「なんだよぅ」
ロールパンナはローラの名を口にするたび快い気持ちがこころの中に生まれるのでした。
ローラは何度も自分の名を呼ぶロールパンナを見てくすくす笑いました。
ロールパンナも一緒に笑いました。

 ロールパンナの赤いハートは、ドキドキと赤く光りました。
それはとても快いものでした、と同時に苦しくもありました。
私はローラのためなら何でも出来る。
ロールパンナはそう思いました。
二人はいつまでも一緒に笑っていました。
赤いハートはその思いにあわせて激しく鼓動しました。
そしてロールパンナはこの気持ちを、決して忘れませんでした。

2010年11月1日月曜日

青いハート (ファン小説)

 あくまの声がささやくよ
 お前はあくまの子
 正しい奴はみんな敵
 青いハートは悪いハート

 ロールパンナは飛び起きました。
一瞬どこにいるのか思い出せないほど混乱していました。
そこはよくロールパンナが夜を過ごすのに使っている洞穴でした。
空は白々と明るくなりかけ、もうすぐ暖かい朝がやってくることを告げているようでした。
ロールパンナは深いため息をつき、額の汗を拭いました。
恐ろしい夢を見ていたのでした。
それは青いハートの力が、とてつもなく大きくなってしまう夢でした。
夢の中で、ロールパンナはアンパンマンを倒し、ばいきんまんを壊し、メロンパンナを失い、次に自分が何をするのか気がついてしまいました。
それは「自分を壊すこと」でした。

 長い間冷たい岩に囲まれ、ロールパンナの心はずいぶんとささくれ立ってしまっているようでした。
ロールパンナはもう一度寝ようかとも思いましたが、きっともう眠れないと思いなおし、外に出ていきました。
冷え切った身体に、つめたい朝の風が吹き付けました。
ちょっと身震いをして薄暗い空に飛び立ちました。
こんな気分の時は、いつも花を見に行くことにしていたのでした。

 ばいきんまんは朝食のあと、ばいきんUFOに乗り込み花を探しに出かけました。
ドキンちゃんがいつもの様にわがままを言い出したのです。
「わたしの部屋をお花でい~っぱいにしたいの~。」
「わたしはまるでお花のお姫様~。」
 ばいきんまんはどこからそんなアイデアを思いつくのかと思いながら、
「ドキンちゃんがお花畑に行けば~…」
 と言ってみましたが、
「いいから行ってきなぁ!!」
と一蹴されてしまったのです。
「俺様きれいなお花なんてだ~いっ嫌いだもんね…」 
独り言を言いながら、ばいきんUFOから大きな袋と鎌を持ったマジックハンドを伸ばしました。

 ロールパンナは、すばやくロールリボンを繰り出しました。
リボンは一撃でばいきんUFOのマジックハンドを断ち切りました。
「だ、誰だっ!!」
 ばいきんまんは驚いて振り返りました。
「ロールパンナ!?」 
 ロールパンナはばいきんまんの顔を見ると、自分の苦しみの原因を思い出しました。
すべてこのばいきんまんが悪いのだ、と思いました。
壊せ。
青いハートはロールパンナにそう命令しました。
こいつを壊せばすべてが解決する、壊してしまえ。
ロールパンナは背筋にゾクリと冷たい物を感じました。
確かにそのとおりだ、と思ってしまったのです。

「ロールパンナ!!お前、アンパンマンを倒すのはどうした!」
 ばいきんまんは叫びました。
「アンパンマン?」
 なぜここでアンパンマンの事が出てくるのだろう、とロールパンナは思いました。
「そーだ! アンパンマンこそお前が倒すべき相手なのだ!」
「なぜ」
「アンパンマンがいるからお前はメロンパンナと暮らせないのだ!!」
 ズキっと心の奥が痛みました。
「アンパンマン…。」
 アンパンマンは私に無い物をすべて持っている、とロールパンナは気がつきました。
皆に好かれ、正義を体現し、そしてゆるぎない心を持っている。
そしてメロンパンナも。
そう思うと自分が情けなく、無価値な存在のように思えてくるのでした。
そしてアンパンマンがねたましく、心に醜い感情が燃え盛ってしまうのでした。

アンパンマンはちょうど朝のパトロールをしている所でした。
「ばいきんまん!!お花畑を荒らすのはやめるんだ!!」
 そう言ってから、アンパンマンはロールパンナに気がついて、驚いた顔をしました。
「…ロールパンナちゃん」
その瞳は穏やかでした。
「ロールパンナ!! アンパンマンを倒すのだ!!」
 ばいきんまんの声が耳に響きました。
しかしアンパンマンは、落ちているマジックハンドに気がつき、
「ロールパンナちゃん、花を守ってくれてたんだね!」
と、嬉しそうに言いました。
けれども、ロールパンナの心はその無邪気な態度を見て、ますますアンパンマンを憎らしく感じてしまうのでした。
「アンパンマン!!お前を倒す!!」
声に出して言いました。
それは、自分に言い聞かせるためでした。
アンパンマンと戦い始めたロールパンナを見て、ばいきんまんは
「いいぞー!!それ、やっつけろ~!!」
 と応援しつつ、鎌と袋を拾い上げ花を次々に袋につめていきました。

 リボンを繰り出し、逃げ回るアンパンマンを追いかけながらロールパンナは別のことを考えていました。
この戦いに決着がつくことはあるのだろうか?
私は永遠に二つの心の間で苦しむのではないのだろうか?
アンパンマンが地面に着かんばかりに低く飛んでいる所を、上からリボンで一撃しました。
けれどもすんでのところで当たりませんでした。
ぱっと花びらが散りました。
ロールパンナはその光景を見て、自分の怒りが収まるのを感じました。
それだけでなく、もう何をする気も起きませんでした。
ロールパンナはリボンを納め、ゆっくり花の真ん中に降り立ちました。

アンパンマンは嬉しそうに、
「ロールパンナちゃん…」
 といいました。
けれどもロールパンナのアンパンマンをねたましく思う気持ちは変わっていなかったのです。
そして、そんな気持ちに支配される自分を情けなく思う気持ちも、やっぱり変わっていませんでした。
花畑に立ち尽くし、ロールパンナは自分を真っ二つに引き裂いて、青いハートを捨ててしまいたくなりました。
新しい自分になれたら、正義の側にしっかり立つことが出来たら…。

 ばいきんまんは捨て台詞を残して立ち去ろうとしました。
ふと見ると、ロールパンナもついてきていました。
ロールパンナはアンパンマンと一緒に帰ることは出来なかったのです。
そして、孤独に押しつぶされそうな心は、他人の近くにいることを望んだのでした。
ばいきんまんは無表情についてくるロールパンナを見ながら、そのうちばいきん草のエキスを入れてやらなくては、と思いました。