2011年5月19日木曜日

ロールパンナとばいきん砦 (ファンノベル)

 ここは、西部の町。
一人の流れ者が白馬にまたがり、町に入ってきました。
酒場の前に馬をつなぎ、やさしくその首を叩くと酒場に入っていきました。
帽子を目深にかぶり、顔には覆面をしているその流れ者は、カウンターに座りました。
「なんだぁ?見ない顔だなぁ。名前はなんて言うんだい?」
常連のカレーパンマンが尋ねましたが、その流れ者は答えません。
「おいおい、何とか言ったらどうだい?」
カレーパンマンは言いました。
バーテンのしょくぱんまんは放っておくようにカレーパンマンに目配せしましたが、カレーパンマンは気がつきません。
ロールパンナは、チラリとカレーパンマンを見ると馬鹿にしたように、
「お前はこの町の保安官か?」
といいました。
「いや?、そういうわけじゃないけど、それが関係あるのかい?」
カレーパンマンは、すこし戸惑いながら言いました。
すると、ロールパンナは、
「だったら余計な口を叩くんじゃない…」
といいました。
カレーパンマンは怒って、
「なんだとぉ?怪しい奴だな!何をしにこの町に来たんだ?答えによっては…」
と言い、腰の特製カレーピストルに手を伸ばしました。

「まぁまぁ、二人ともやめてください。これは私のおごりです」
としょくぱんまんはカウンターに二つのグラスを置きました。
ロールパンナはカレーパンマンから視線をはずし、
「私は降りかかる火の粉を払っただけだ…」
と言い一口すすりました。
カレーパンマンもしぶしぶ座り、
「しょくぱんまん、お前は甘すぎるんだよ…」
と言いました。
しょくぱんまんはロールパンナに
「この町の近くに、盗賊団が砦を作ったのですよ。それでみんな神経質になっているんです。悪気は無いので、許してください」
と言いました。

その頃、ジャム牧場ではメロンパンナが町にお使いに行くように頼まれていました。
「お願いね、メロンパンナちゃん」
「うん、わかったわ」
「最近、ばいきん盗賊団がうろついているから、危ないと思ったらアンパンマン保安官のところに行くのよ?」
「大丈夫よぉ、バタコさん。いってきま~す!!」
バスケットを下げたメロンパンナちゃんは元気よく出かけていきました。

「ジャムおじさん、メロンパンナちゃんを一人でお使いに行かせて大丈夫だったかしら…?」
とバタコさんは不安そうに言いました。
ジャムおじさんは難しい顔をして、
「う~んしかし、もし恐がるそぶりを見せれば、ばいきんまんたちは馬泥棒だけでなく、もっと調子に乗ってこの牧場に手を出してくるだろうからなぁ…」
「メロンパンナちゃん、不安でしょうね…」
「せめてロールパンナが戻って来てくれればいいんだが…どこにいるのやら…」

ロールパンナが酒場から出てくると、愛馬マリンに角砂糖をあげている少女に出会いました。
ロールパンナにはそれがすぐに、長い間会っていない妹のメロンパンナであることがわかりました。
しかし、ロールパンナはぶっきらぼうに
「どいてくれ…」
と言い、メロンパンナを押しのけようとしました。
けれどもメロンパンナはにこにこして言いました。
「この子の名前はなんていうの?なんだか懐かしい感じがしたわぁ」
「名など無い」
すると、メロンパンナはロールパンナの顔をじっと見つめて、
「わたしメロンパンナ。あなたのお名前は?」
と聞きました。
ロールパンナは答えませんでした。
メロンパンナはそれでも話すのをやめずに、今度は
「私のお姉ちゃんはね、私が小さい頃出て行ったきり帰ってこないの。あなた知らない?ロールパンナ、って言うんだけど」
「…さあね…」
そういい捨ててロールパンナはマリンにまたがり、町を出ました。
マリンは不思議そうにロールパンナを何度も見ました。
「なんだよマリン。お前もメロンパンナに会えて良かっただろう?けど、まだ秘密だからな…。」

バイキン砦ではばいきんまんとドキンちゃん、それにカビルンルンたちが酒盛りをしていました。
もうすぐ用心棒がやってくるということで、みんな浮かれきっていました。
「用心棒がやってくればあの目障りなアンパンマン保安官や、しょくぱんまんや、カレーパンマンに一泡吹かしてやれるのだ~~は~ひふ~へほ・ほ・ほ~!!」
「しょくぱんまんさまだけは駄目だからね~!!分かった?!」
「はいはい~。もうドキンちゃんたら...。」
「なんですって!!」
「いえ何でも...。」

そんな会話をしていると砦の前に、ロールパンナがやってきました。
早速扉を開けるカビルンルンたち。
「よくきたな!報酬はたっぷり弾むからアンパンマン達をギッタンギッタンのけちょんけちょんにしてやって頂~戴!!」
「前金で5000...。」
「ま、前金で5000!高すぎよばいきんまん!」
「なら他を当たるんだな...」
そういってロールパンナは愛馬に向かいました。
「待って頂戴!払いますからよろしく頼みますよ!ねっねっねっ?」
もみ手をしながらばいきんまんはロールパンナを引き止めました。
「ちょっとばいきんまん!そんなに払ったら私たちの分が無くなっちゃうじゃないの!」
「大丈夫ドキンちゃん!アンパンマンをやっつけさえすれば、こっちのものよ!油断しているところを...」
「うひひ!ばいきんまんあたまイイ~」
ロールパンナはちょっとイライラした様子で、
「どっちにするんだ?払うのか?払わないのか?」
といいました。
「払います払います!やろう共!用心棒様を部屋に案内して差し上げろ!」

その夜、寝静まったジャム牧場に一つの人影が動いていました。
眠っていたジャムおじさんの枕元に立ったその人影はロールパンナでした。
「おい、起きろ。」
眠い目をこすって起きたジャムおじさんは驚いて言いました
「ロールパンナじゃないか?今までどこに行っていたのかね?」
「静かにしろ!ばいきんまん達がこの牧場を狙っている。明日の朝ここにやってくる。さっさと避難しろ。」
ぶっきら棒に言うロールパンナにジャムおじさんは静かに言いました。
「やれやれ、久しぶりに帰ってきたと思ったらそんな話かね。ここは私たちの牧場だよ。私とお前たちの母さんと汗水流して、やっとここまでにしたんだ。そう簡単に渡せるものか。」
「かあさんの事を言うな!...私はお前を許さない...。かあさんはお前のせいで...。」
そのとき、起きてきたメロンパンナが目をこすりながら
「ジャムおじさん...誰とお話してるの~...」
と扉を開けました。
ジャムおじさんが顔を戻すとロールパンナはもういませんでした。

翌朝いつもの様にメロンパンナは配達に出かけました。いつもと違うのはお供にチーズがいる事でした。
「チーズ!きちんとおぎょうぎよくしているのよ!」
といってメロンパンナは得意げに出かけていきました。
チーズはいつもバタコさんのお供をしているので、メロンパンナは少しお姉さんになったように感じられたのでした。
そんなメロンパンナを見送りながら、ジャムおじさんとバタコさんは寂しそうな笑顔を浮かべていました。
「さて...」とジャムおじさんはいつもはホコリをかぶっているガンベルトを取り、腰に付けました。
バタコさんもライフルに弾を込めました。
静かな朝の空気が、耳に痛いほどでした。

「チーズ!どこへ行くのよぅ!チーズったら!」
町に来ていたメロンパンナは一緒にいたチーズが突然吠え、駆け出していったのにビックリして叫びました。
それを聞いたしょくぱんまんとカレーパンマンは顔を見合わせ頷きました。そして、
「チーズは私たちが追いかけます。メロンパンナちゃんは保安官の所へ知らせに行ってください!」
としょくぱんまんは言いました。
カレーパンマンがピストルにカレーを補充し、しょくぱんまんがカウンターの裏からライフルを取り出したのを見て、メロンパンナは何が起こっているのかを理解しました。
それで、メロンパンナは頭を振り、
「私もいく!ジャムおじさんたちがしんぱいだもの!」
といいました。
「いや、メロンパンナちゃんが来ると足手まといだからよ、アンパンマンと一緒にいてくれよな?ジャムおじさんは俺たちが助けてくるからよ!」
とカレーパンマン。
「カレーパンマン、そういう言い方は無いでしょう。それに私たちだけでバイキン盗賊団を追い払えるか...」
「しょくぱんまん、だからお前は甘いんだよ!何とかしなくちゃならないだろ!男なら黙ってやるだけさ!」
「そうして黙ってやられるんですか?もっとよく考えて...」
「なにお!」
「なんですか!」
そこへ、やってきたアンパンマン保安官が仲裁に入りました。
「まぁまぁ二人とも~。バイキン盗賊団が何かしているなら、保安官の僕の出番だよね?」
「う~んまあ、そうなりますね...」
「しかしアンパンマン一人に行かせるわけには行かないぜ?!当然俺たちも行くぜ!」
「アンパンマン!あたしも行くわ!」
アンパンマンは困った顔でメロンパンナを見ました。
「メロンパンナちゃん、ジャムおじさんたちは僕たちに任せて。メロンパンナちゃんにもしものことがあったら大変だよ。僕たちジャムおじさんに叱られちゃうよ」
と言いアンパンマンはにっこり笑いました。
「大丈夫。心強い味方が二人もいるんだもの。僕たちに任せて!」
メロンパンナは目を大きく開いてアンパンマンを見つめていましたが、やがて微笑んで大きくうなづきました。

アンパンマン達が町を通り抜けようとしていると、広場に大きな処刑台が見えてきました。
その上にはジャムおじさんとバタコさんが縛られた上に、首にロープをかけられていました。
「あ~あ~、アンパンマンアンパンマン。二人の命が惜しければさっさと出てきなさい」
ばいきんまんは得意顔で拡声器で呼びかけました。
そして、処刑台の前にはロールパンナが立っていました。
アンパンマンはまっすぐに広場に出て行き、
「僕はここにいるぞ!ばいきんまん!悪いことはやめるんだ!」
と大きな声で言いました。
「いつまでそんなことを行っていられるかな?今回はいつものようには行かないもんね~!一対一の勝負だ!お前が負けたらこの町から出て行け!もし俺様の用心棒が負けたら俺様たちはこの町から出て行ってやる!...アンパンマン、この勝負受けて立つか?もしいやだといったら...二人の命は保障できないけどな!は~ひふ~へほー!!」
アンパンマンは少し考え、答えました。
「ようし、その勝負受けて立とうじゃないか。だから二人を放すんだ!」
「や~だよっ!」
「なんだってぇ!?」
「イイからさっさと勝負す・る・ん・だ !」
「くそう...ばいきんまんめぇ...!」

アンパンマンは、用心棒の前に進み出ました。
「ロールパンナちゃん!どうしてこんなことを!?ジャムおじさんは君のお父さんじゃないか!」
しかし、ロールパンナは硬い表情でアンパンマンを見つめたまま、低い声で言いました。
「うるさい...さっさと勝負しろ!」
二人は対峙し、にらみ合いました。
周りの町の人たちは固唾を呑んで見守っています。
風に吹かれてタンブルウィードが転がっていきました。

そのとき、メロンパンナが飛び出してきて
「ロールパンナおねえちゃん!やめて!ジャムおじさんにひどいことしないで!」
と叫びました。
アンパンマンとロールパンナは一瞬気を取られ、そして同時にピストルを抜きました。

銃声はひとつに聞こえました。

二人はしばらく見つめあい、そしてアンパンマンはがっくりと膝を突きうつぶせに倒れました。
「アンパンマン!」
皆、そう叫び動くことが出来ませんでした。

ロールパンナはゆっくりばいきんまんの方を振り向き、
「さぁ、アンパンマンは倒したぞ。残金を貰おうか」と言いました。
メロンパンナはそれを聞いてロールパンナのほうに駆け出していきました。
そして、ロールパンナの胸をこぶしで叩きながら泣きじゃくりました。
会いたかった姉が大好きなアンパンマンを倒したことに、混乱していたのでした。
そんな二人を見ながら、カレーパンマンはばいきんまんに言いました。
「ばいきんまん!これで気が済んだだろう!ジャムおじさんとバタコさんを解放するんだ!」
しかし、ばいきんまんはニヤニヤしながら
「はひ?俺様そんな約束したっけ?ねぇドキンちゃんどうだったっけ?」
「うひひ。そんなこと言ってないわよね~!」
「なんだとぉ!最初ッからそのつもりだったのか?!」
ばいきんまんはカビルンルンたちに
「野郎共!みんなまとめてやっつけてしまえ~!!」
と命令しました。
広場は大混乱になりました。
逃げ惑う人、カビルンルンたちとの銃撃戦、そしてばいきんまんは処刑台のレバーを思いっきり引きました。

ジャムおじさんとバタコさんの足元の板が開き、二人はなすすべもなく落ちていきました。
ロールパンナは指笛を吹きました。
その音はあたりの騒音を貫き、響き渡りました。
すると、マリンが風のように駆けて来て、処刑台の下に飛び込みました。
同時にしょくぱんまんが二階のテラスからライフル銃でロープを狙い撃ちしました。

マリンが処刑台の下から出てきた時には二人を背中に乗せていました。
「早く!アンパンマンの新しい顔を焼くよ!」
町の皆に助けられ、ジャムおじさんとバタコさんは急いでパンを焼く準備をしました。

ロールパンナとメロンパンナはアンパンマンの肩を支え、物陰に走り込みました。
「アンパンマン!いつまで死んだフリしているんだ!さっさと戦うんだ!」
ロールパンナがそういうとアンパンマンは照れたように笑い、
「どお?やられたように見えたかなぁ?」
と言いました。
「...のんきな奴だな...さぁ!行くぞ!」
「メロンパンナちゃん、ジャムおじさんの所に避難しててね!」
そういって二人は飛び出していきました。

メロンパンナは物陰に隠れたまま、くすくす笑いました。
時折流れ弾が飛び交う中、いつまでも笑っていました。

ロールパンナは両手にピストルを持ち、アンパンマンと背中合わせになり、二人でバイキン盗賊団と戦い続けました。
カレーパンマン、しょくぱんまんもそれぞれ戦い、カビルンルンたちはだんだん劣勢になってきました。
「ええい!カビルンルン!逃げるな~!!」
ばいきんまんはアンパンマンが無傷なのを見てあわてて言いましたが、もうバイキン盗賊団は総崩れでした。
「こうなったら~!処刑台ロボの登場だ!」
ばいきんまんがリモコンを操作すると、処刑台が変形し、巨大なロボットになりました。
「は~ひふ~へほ~!!お前らみんなぺしゃんこにしてやるぅ~ぅ!!」

そのときアンパンマン号がやってきました。
その上にはバタコさんがアンパンマンの新しい顔を持って、
「アンパンマ~ン!!新しい...顔...よ?」
と、元気なアンパンマンを見てぽかんとしました。
「バタコさんありがとうございます!!でもまだ僕は戦えま~す!!」
そういってアンパンマンと他の三人は顔を見合わせ頷くと、空に飛び立ちこぶしを突き出してバイキン処刑ロボに向かって行きました。
「クワッドパ~ンチ!!」
四人のパンチを受け、ばいきんまんは空のかなたに吹っ飛んでいきました。ドキンちゃんも飛んで行きました。
「ばいばいき~ん!!!」「かびかびかび~」



「もう行っちゃうの?」
メロンパンナは寂しそうに言いました。
「あぁ。長居しすぎたようだ...」
ロールパンナは愛おしそうにメロンパンナを見つめて言いました。
「ここは私には眩しすぎる。あの草のように風に任せて転がるのが性に合っているようだ」
ジャムおじさん、バタコさん、アンパンマン、しょくぱんまん、カレーパンマン、それに町の皆もロールパンナを見送りに出てきました。
ジャムおじさんは、
「ここはお前のふるさとだよ。いつでも帰ってきておくれ。たとえ私を許せないとしても、妹の顔くらい見に来ておくれ」
と言いました。
けれどもロールパンナは
「ふん...」
と答えず、メロンパンナに一つの袋を渡しました。
ずっしりと重いその袋を受け取って戸惑っているメロンパンナをさっと抱きしめると、ひらりとマリンにまたがり「じゃあな!メロンパンナ!また会おう!」
といってたちまち荒野の向こうに駆けていきました。

「メロンパンナちゃん、その袋はなんだったの?」
ジャム牧場に戻ると、アンパンマンは聞きました。
メロンパンナが袋を開けてみると、中には金貨がぎっしり入っていました。
「ロールパンナのやつ...」
ジャムおじさんはパイプをくわえにこにこしました。
そしてロッキングチェアに座るとゆっくり揺らし始めました。
メロンパンナは窓から夜空を見上げると
「お姉ちゃん...ロールパンナお姉ちゃん、ありがとう」
と言いました。
外ではいつものようにタンブルウィードが転がっていました。