2010年12月2日木曜日

アンパンマンとブラックメロンパンナ (ファン小説)

 「メロンパンナちゃん遅いですね…」
アンパンマンはジャムおじさんに言いました。
メロンパンナは今朝、パンの配達に出たっきり、まだ戻らないのでした。
「何かあったんでしょうか…?」
「心配すんなって!!きっとお花畑で遊んでいて時間を忘れているんだよ!」
とカレーパンマン。
「そうですよ。あるいはロールパンナちゃんに出会ったとか」
としょくぱんまんも言いました。
しかし、アンパンマンは可愛い妹が心配でなりませんでした。
「僕、探しに行ってきます!」
「僕もいく!!」
とクリームパンダも言いました。
その時、パン工場の外で大きな音がしました。
みんながあわてて外に出てみると、バイキンUFOが墜落していました。
そして、ばいきんまんはアンパンマンにすがり付いて、
「はひ~!!助けてくださいなのだ~!」
と叫びました。
「どうしたの?」
とアンパンマンはいつもと様子の違うばいきんまんに驚いて聞きました。
「何か事情があるようだね。中に入って話を聞こうじゃないか。」
ジャムおじさんの言葉にみんなは工場の中に戻りました。

 追い詰められたような、落ち着きのないばいきんまんは、今までの事柄を話しました。

 それは、新しいバイキンエキスを開発したことから始まりました。
ばいきんまんはバイキン草から取れるエキスから「憎しみ」の成分を取り出すことに成功したのでした。
そのときばいきんまんの頭に閃いたのはロールパンナを使ってアンパンマンをやっつける完璧と思える作戦でした。
ロールパンナはメロンパンナが現れると良い心が強くなる。
ならばまずメロンパンナにバイキン草を使い、悪いこころを植えつけてしまえば、ロールパンナも悪いままになる、と言う思いつきでした。
それは素晴らしい作戦に思えました。
なぜなら、いかに非力なメロンパンナと言えども長い間捕らえておくことは難しいからです。
しかしバイキンエキスで悪いメロンパンナ、ブラックメロンパンナにしてしまえば、ばいきんまんの言いなりにさせることが出来るのです。
そのことを思いついたばいきんまんは、早速ドキンちゃんに頼んでロールパンナをおびき寄せてもらうことにしました。

 「ドキンちゃん!!俺様アンパンマンをやっつける凄いアイデアを思いついたのだ!!」
「え~、また~?ホントに上手くいくの?また失敗するんじゃないの?」
嬉しそうに入ってきたばいきんまんにドキンちゃんは気の無い返事をしました。
「このバイキンエキスを使えば大丈夫なのだ!このバイキンエキスは憎しみの成分だけを取り出した特製なんだから!!」
「バイキンエキスねぇ。そろそろワンパターンなんじゃなぁい?」
一生懸命説明してもドキンちゃんは雑誌から目を離しません。
「今度の作戦は一味違うのだ~!!だから~!!ドキンちゃんはロールパンナをおびき寄せてきて!」
「ばいきんまんはどうするのよぅ?」
「俺様は、このばいきんまん特製バイキンエキスでメロンパンナをブラックメロンパンナにしてやるのよぉっ!!」
「えぇっ、メロンパンナをブラックメロンパンナに? ばいきんまんにしちゃ良い作戦じゃないの~!」
ドキンちゃんはそこまで聞いてやっと作戦が上手く行くように思ったようでした。
急に笑顔になってばいきんまんの背中をどんと叩きました。
「おとと…アンパンマンをやっつければ!!」
「世界は私たちのもの!!」
「おいしい物も!!」
「ひっとり占め!!」
「「はっひふっへほ~っ!!」」
仲良く踊った後、早速ばいきんまん達はUFOで出かけていきました。


 「あくまのくにの~ぷりんせすぅ~」
メロンパンナはバスケットを抱え、歌を歌いながら飛んでいました。
「おねえちゃんにあいたいなぁ…」
と独りごとを言ったとき、
「そんなに会いたいなら会っわせってやっるっぞ~!!はっひふっへほ~!!」
とばいきんUFOが降りてきました。
「ばいきんまん!!おねえちゃんに何をしたの!?」
メロンパンナはこぶしを作って聞きました。
「まぁ~だ何もしていないよ~。何をするか知りたいか?」
からかうような笑顔でばいきんまんは聞き返しました。
「何をする気なの!!おねえちゃんに変なことしたらメロンパンナ許さないんだから!!」
メロンパンナは精一杯の恐い表情を作ってばいきんまんに言いました。
けれどもばいきんまんはニヤニヤしながら、
「答えはこの箱の中だよ!」
と、白い箱をメロンパンナに向かって放りました。
「!? 何よぉこれ?」
メロンパンナは思わず受け取り、ばいきんまんに聞きました。
「その中には、アンパンマンをやっつけるための物が入っているのさっ!!」
「そんな事させないんだから!」
とメロンパンナが箱を開けると、中に入っていたのはブラックチクリンでした。
ブラックチクリンは早速メロンパンナのお尻にその角を付きたてました。
「きゃんっ!!」
メロンパンナにはどうすることも出来ませんでした。
「ぎゃ~ははは!!引っかかった引っかかった~!!」
気を失ったメロンパンナをマジックハンドで捕まえ、バスケットの中のパンを食べながら意気揚々とばいきんまんはバイキン城に戻りました。

 ロールパンナを捕まえるのは簡単でした。
何しろメロンパンナの事になると回りが見えなくなるのですから。
「久しぶりだな、ロールパンナ」
ばいきんまんは、がっちりと拘束器に捕らえられたロールパンナを見て満足そうに言いました。
「ばいきんまん、メロンパンナはどこだ!!」
ロールパンナは本当に怒っていました。
「今あわせてやるよ。メロンパンナ、こっちに来るんだ」
「ハーイ」
と、自動ドアから出てきたメロンパンナは、ナースキャップをかぶっていました。
そして、
「おねえちゃん、お注射しましょうね~」
とロールパンナに近づいていきました。
しかしいつものメロンパンナとどこか雰囲気が違っていました。
「メロンパンナ?どうしたんだ?」
ロールパンナはメロンパンナに言いましたが、メロンパンナは、
「痛くないですよ~」
と、まるで聞こえていないようなそぶりでした。
ロールパンナは恐ろしい予感にとらわれ、
「ばいきんまん!!お前メロンパンナに何をした!!」
と叫びました。
「なに、ちょっとバイキンエキスでブラックメロンパンナになってもらったのよ! そして、お前も特製バイキンエキスでブラックロールパンナにしてやるぅ!!」
ばいきんまんは今まで冷静なフリをしていましたが、こらえきれずに
「は~ひふ~へほったら、は~ひふ~へほ~!!」
と踊りました。
「さぁっ二人でアンパンマンをやっつけに行くのだ~!!」

 「メロンパンナ!!しっかりするんだ!!メロンパンナ!!」
ロールパンナは必死に呼びかけましたが、メロンパンナには聞こえないようでした。
そして、メロンパンナはステンレスのトレイから注射器を取り上げ、ロールパンナの青いハートに突き立てました。
ロールパンナは激痛に耐え切れず大声で叫びました。
その痛みは肉体的なものではなく心の痛みでした。
そして、ロールパンナは自分の青いハートの力が大きくなり、閉じ込めていた憎しみがどんどん増すのを感じました。
「メロン…パンナ…!!」
ロールパンナの意識は遠のいていきました。

 大きな爆発がバイキン城を包みました。
煙が晴れると、そこにいたのはブラックロールパンナでした。
ばいきんまんは大喜びで、
「行け!!ブラックロールパンナ!!アンパンマンをやっつけるのだ!!」 
と命令しました。
しかし、ブラックロールパンナは動きませんでした。
「どうしたぁ!?聞こえないのか?ロールパンナぁ!!」
「うるさい!!」
とブラックロールパンナはばいきんまんを睨み、リボンを一閃させました。
とっさに伏せたばいきんまんの後ろでコンソールが真っ二つになりました。
「な、なんだか様子がおかしいわよ、ばいきんまん」
ドキンちゃんはばいきんまんの後ろに隠れながら聞きました。
「まず、お前から壊してやる…」
「げぇっ!!」
ばいきんまんは理解しました。
ロールパンナの憎しみは強くなりすぎて、周りの者すべてを壊さずにはいられなくなってしまったのだと。
けれどもドキンちゃんは
「ちょっと何言っているのよぅ!!」
といつもの調子で抗議しました。
ブラックロールパンナはドキンちゃんを一瞥するとリボンを振るいました。
「ドキンちゃん危ない!!」
ばいきんまんはドキンちゃんを突き飛ばしました。
「ちょっと痛いじゃないのぉ!!」
ひっくり返ったドキンちゃんがばいきんまんを見ると、研究室の端にまで吹き飛ばされていました。
「ドキンちゃん、逃げて…バイキン仙人のところに…」
「わかったわ!」
ドキンちゃんはドキンUFOに飛び乗り、
「でもその前に…」
とドキンUFOでブラックロールパンナに突っ込みました。
ばいきんまんに気をとられていたブラックロールパンナは避けきれずにUFOと共に壁に激突しました。
「ばいきんまん!!今のうちに!!」
「よぉしっ!!」
ばいきんまんはバイキンUFOに乗り込み、ありとあらゆる武器を壁に張り付いているブラックロールパンナに浴びせかけました。
しかし、ブラックロールパンナは両手に持ったロールリボンでことごとく跳ね返していきました。
そして、一瞬の隙を突いてUFOにリボンを絡め、壁に打ち付けました。
「は、はひ~」
ばいきんまんは目を回し、闇雲にロケット弾を発射しました。
ブラックロールパンナは軽々と避け、ばいきんまんにとどめを刺そうとしました。
しかし、天井がロケットの爆発で崩れ始め、だんだんバイキン城全体にも亀裂が入り始めました。
気がつくのが遅れたブラックロールパンナは、瓦礫をよけきれずに埋まっていきました。
「ドキンちゃんはバイキン仙人のところに逃げて!」
「ばいきんまんはどうするのよぅ!!」
「俺様はブラックロールパンナを止めなくてはなのだ!」
「そんなことできるの?」
「俺様はばいきんまんなのだ!!ちゃんと考えがあるから心配しないでイイのだ!!」
「…バイキン仙人様を連れてすぐ戻ってくるから!!」
そういってドキンちゃんは飛んでいきました。

 「とは言ったものの、考えなんかないのだ…」
眼下ではバイキン城が崩れ落ちたところでした。
と、一箇所動く物がありました。
それはローリングハリケーンで瓦礫を吹き飛ばしているブラックロールパンナでした。
「まずい…」
ばいきんまんは冷や汗を流し、ブラックロールパンナに見つかる前に、そこから離れました。
「あいつにだけは頼りたくないけど…この際仕方ないのだ…」
ばいきんまんは、ぼろぼろのUFOでパン工場に向かいました。
「パン工場まで持ってくれなのだ…」

 「それで助けを求めてやってきたと言うわけか…」
ジャムおじさんは腕を組んで考え込んでいました。
「しかしなぁ、ロールパンナを元に戻すにはメロンパンナのメロンジュースが一番効くんだが…」
「そのメロンパンナちゃんが行方不明では…」
しょくぱんまんが、後を引き取って言いました。
「しかもブラック化してるなんてなぁ…!!ばいきんまん、コテンパンにしてやるから覚悟しな!!」
カレーパンマンは腕まくりをしてばいきんまんに近づきました。
「はひ~」
「カレーパンマン、今はそんなことをしている場合じゃないでしょう」
「なにお!!」
「愛の花か、まごころ草があれば、ロールパンナを元に戻すことが出来るかもしれない…」
とジャムおじさんが言うと、皆は顔を見合わせ頷きました。
「愛の花なら咲いている場所は分かります。僕、採ってきます!!」
アンパンマンはそう言って外に出ました。
「じゃあ、おれはバイキン城まで行ってメロンパンナちゃんを探してくるぜ!」
カレーパンマンも外に出ましたが、すぐに立ち止まっていたアンパンマンにぶつかってしまいました。
「おい、アンパンマン、なにそんな所でボーッと…」
見上げると、空からブラックロールパンナが皆を見下ろしていました。

 「ロールパンナ!!」
ジャムおじさんは叫びました。
「ロールパンナちゃん!!」
皆も口々に呼びかけましたが、ブラックロールパンナの表情は変わりませんでした。
「アンパンマン…今日こそおまえをやっつける…」
ブラックロールパンナは恐ろしい表情でいいました。
「ロールパンナちゃん!!悪い心と闘うんだ!!」
アンパンマンは必死に訴えました。
「私たちは友達でしょう?思い出して!!」
しょくぱんまんもいいました。
「おれたちのこと忘れたのかよ~!!」
カレーパンマンは悲しそうに言いました。
「おねえちゃん!!元に戻って~!!」
幼いクリームパンダも一生懸命に頼みました。

 しかし、ブラックロールパンナは無言でロールリボンを取り出しました。
「カレーパンマン、バイキン城に行ってメロンパンナを助けてきておくれ!!」
ジャムおじさんは皆に指示を出しました。
「アンパンマンとしょくぱんまんは、ロールパンナを引き止めておいておくれ。気を付けるんだよ!!」
「私たちはアンパンマン号で愛の花を採りに行くよ!!」
「はい!!」
ジャムおじさん、バタコ、チーズそしてクリームパンダはアンパンマン号に乗り込み急いでまぼろしの谷に向かいました。
ばいきんまんはバイキンUFOに取り付き、
「お前たちにだけ活躍させるわけには行かないのだ!!」
と言いながら、凄い勢いでUFOを修理し始めました。

 アンパンマンとしょくぱんまんは飛び立ってブラックロールパンナに対峙しました。
「アンパンマン、お前を倒す!」 
「きみとは闘えない! まごころ草の人に尽くす力、やさしい心を思い出して!」
アンパンマンはそれでもロールパンナの良い心の力を信じてそう言いました。
「フン、それしか言えないのか? おめでたい奴だ。ばらばらにしてやる!」
ブラックロールパンナは両手のリボンで二人に襲い掛かってきました。
「アンパンマン!闘うしかありません!!もう私たちの言葉もロールパンナちゃんには…」
しょくぱんまんはそういいながらしょくパンチを繰り出しました。
しかし、さらりとかわしたブラックロールパンナは、逆にしょくぱんまんをリボンでぐるぐる巻きにしてしまいました。
振り回され、投げ飛ばされたしょくぱんまんを受け止め、アンパンマンは言いました。
「メロンパンナちゃんのことを思い出すんだ!メロンパンナちゃんはいつも君の事を想っているよ!」
「メロンパンナか? あのうるさい奴なら瓦礫の下に埋まっているぞ? それがどうした?」
ブラックロールパンナは攻撃の手を休めず言いました。
「そんな…君の大事な妹じゃないか!」
「あてが外れて残念だな。次はお前たちの番だ!」
そういってブラックロールパンナはしょくぱんまんにリボンを絡め、もう一方のリボンで打ちのめしました。
「やめるんだー!ロールパンナちゃんっ!!アーンパンチッ!!」
そういって繰り出したアンパンチをブラックロールパンナは紙一重でかわしました。
ブラックロールパンナはしょくぱんまんを投げ捨て、アンパンマンに向かって二本のリボンを振るいました。

 「大変!!しょくぱんまんが!!」
疾走するアンパンマン号から双眼鏡で見ていたバタコはジャムおじさんに言いました。
「この峠を越えればもう少しなんだが…間に合わないかも知れない…」
アンパンマン号は峠道を出来る限りの速さで走っているところでした。
「これ以上スピードを出すとアンパンマン号が谷底に落ちてしまう!」
ジャムおじさんは悔しそうに言いました。
「僕が先に行って、採ってくる!!」
それまで黙っていたクリームパンダが意を決して言いました。
「えぇ!?」
3人ともビックリしてクリームパンダを見ました。
「僕が先に行って、取ってくれば間に合うかもしれないでしょ?」
バタコは心配そうに言いました。
「でも、まぼろしの谷は危険が一杯なのよ?」
「そんな事分かっているよ!、でもアンパンマンやしょくぱんまんだって一生懸命戦ってる!僕だっておねえちゃんのために戦えるよ!」
必死に言うクリームパンダの声は少し震えていました。
「よし、じゃあバタコや、地図を描いておやり」
ジャムおじさんは難しい顔をして言いました。


 「ロォ~ラァッ!!」
ブラックロールパンナはアンパンマンをしたたかに打ち付けました。
「顔がゆがんでちからが出ない…」
アンパンマンはふらふらと地上に落ちていきました。
「これで終わりだ!!アンパンマン!!」
ロールパンナの繰り出したリボンは、しかしアンパンマンに届く前にはじかれてしまいました。
「アンパンマンを倒すのはこの俺様だ!!勝手に倒すなぁ~」
ばいきんまんが応急修理をしたバイキンUFOでアンパンマンを守ったのでした。
「なんだと?!」
「俺様の強さ、見せてやる!!」
ばいきんまんはUFOからありったけのマジックハンドを出し、ブラックロールパンナに攻撃を仕掛けました。
「邪魔を、するなぁ~!!」
ばいきんまんはロールリボンでぐるぐる巻きにされて地面に激突しました。
「とどめだアンパンマン!!」
しかし、またしてもリボンはアンパンマンには届きませんでした。
「ほっほっほ、ずいぶん張り切っているようじゃな?じゃが、ちとやりすぎじゃ」
雲の上にのった老人がブラックロールパンナの前に現れたのでした。
「お前…」
「ドキンちゃんをいじめる奴はこのバイキン仙人が相手じゃ」
ニヤリと笑ってバイキン仙人は杖を構えました。
「面白い…その高慢な鼻をへし折ってやる!」
ロールパンナはリボンを繰り出しましたが、バイキン仙人は煙につつまれ、一瞬のうちに沢山のバイキン仙人になりました。
「バイキン仙人様がんばって~!!」
ドキンちゃんはドキンUFOの上からバイキン仙人に応援の声をかけ、ばいきんまんの所に下りていきました。
「やっぱりイイ考えなんてなかったのね?」
ばいきんまんはUFOのそばで目を回していました。
「はひ~…」
「バイキン城はぼろぼろだし、今度の作戦も失敗ね」
UFOから降りたドキンちゃんは、ばいきんまんに宣告しました。
「ドキンちゃん、あんまり厳しいこと言わないでよ…」
角の垂れ下がったばいきんまんはぐったりして言いました。
「何言ってんのよ!!私の部屋もなくなっちゃたのよ!!今夜どこで寝るのよ~!ばかばかばかぁ~!!」
ドキンちゃんはばいきんまんの頭をぽかぽかぶちました。

 「メロンパンナちゃ~ん!どこだ~!!」
カレーパンマンはバイキン城の上を飛んでいました。
バイキン城はすっかり瓦礫の山となっていました。
「これじゃどこにいるのか見当もつかないぜ…」
カレーパンマンは瓦礫の上すれすれをゆっくり飛び辺りを見まわしました。
「メロンパンナちゃ~ん!!…んっ?」
カレーパンマンはかすかな音を聞きました。
「メロンパンナちゃんか? 今助けるからな!!」
そういって、音の聞こえた辺りの瓦礫をどかし始めました。
「かびかびかびかび~!!」
「うわあっ!!」
しかし、出てきたのはかびるんるんでした。
「なんだよ~!! お前たちか~。メロンパンナちゃんを知らないかい?」
「かび~かびかびかび~」
「え、こっちのほうで声を聞いたって? よ~し、今度こそ!!」
「う~ん…」
「メロンパンナちゃん!!俺だよ!カレーパンマンだよ!!」
メロンパンナは目を回していました。
「あ、カレーパンマン…なんだか気持ち悪い…」
「ひどいな~!せっかく助けに来たって言うのにさ!!」
「いやそうじゃなくって…」

 「ジャムおじさ~ん!!」
クリームパンダは大切そうに愛の花を抱え戻ってきました。
その体は汚れ、傷ついていました。
「クリームパンダちゃん!大丈夫?!」
愛の花を受け取り、バタコはクリームパンダの身体を気遣いました。
「こんなのへっちゃらだい!!」
そういって笑顔を見せたクリームパンダはしかし床にへたり込んでしまいました。
「クリームパンダちゃん…」
「ゆっくり休ませておやり」
そうジャムおじさんは言って、
「よし、早速愛の花の蜜を取ろう」
と準備を始めました。
「はい!」
「チーズ、運転を頼むよ」
「あんあ~ん!!」
アンパンマン号はUターンして、パン工場を目指しました。

 しょくぱんまんは目を覚ましました。
体中が痛みましたが、特にひどい怪我はありませんでした。
何かがぶつかり合う音で、まだブラックロールパンナは誰かと戦っている事が分かりました。
まわりを見回すと、遠くにアンパンマンが倒れていました。
「アンパンマン!無事だったんですね!」
しょくぱんまんは駆け寄り、アンパンマンを抱き起こしました。
アンパンマンも意識を取り戻し、立ち上がって飛び立とうとしました。
「アンパンマン、その身体では無理です!」
「でもロールパンナちゃんを止めなくちゃ…」
「そういえば、ロールパンナちゃんは誰と戦っているのでしょう…?」

 「どうした?わしの高慢な鼻をへし折るんじゃなかったのかの?」
沢山のバイキン仙人はブラックロールパンナにそう言いました。
「ローリングハリケーンッ!!」
ブラックロールパンナは高速回転を始めました。
バイキン仙人の幻影は次々に消えていきました。
「なかなかやりおるな、じゃがまだまだ」
バイキン仙人は余裕の表情で言いました。
しかしブラックロールパンナのハリケーンはどんどん大きくなっていきました。
そして、近くにいたばいきんまんやドキンちゃんまで吹き飛ばされていきました。
「きゃ~!!」
「いかん、ドキンちゃんが…」
バイキン仙人がドキンちゃんを助けようとしたとき、竜巻の中からリボンが鋭く伸びて来ました。
リボンにはじかれたバイキン仙人は腰を打って顔をしかめました。
「あいたたた…わしとしたことが…」
しかし、ブラックロールパンナは手を止めず、リボンでバイキン仙人の杖を絡め取り、膝の上で折ってしまいました。
「さあ、覚悟はいいか?」
ブラックロールパンナはバイキン仙人に聞きました。

 「アンパンマン、新しい顔が焼けたよ」
とジャムおじさんはかまどからアンパンマンの新しい顔を取り出しました。
「この顔には愛の花の蜜が入っている。もしかしたらロールパンナを助けることが出来るかもしれない…」
バタコはアンパンマン号から降りてきて、
「カレーパンマンはメロンパンナちゃんを見つけられたのかしら…」
と言いました。
「まだ戻っていません。心配ですね…」
しょくぱんまんも心配そうでした。
「それよりもロールパンナちゃんを止めるほうが先ですね」
アンパンマンはそう言い、ジャムおじさんもうなづきました。
そして、
「それっ!」
とアンパンマンの顔を交換しました。
「愛が100倍!アンパンマン!!」
アンパンマンはすっかり元気になりました。
「わぁ!なんだか元気がどんどん沸いてくる感じです!」
「愛は、勇気や、まごころや、元気のみなもとだからねぇ」
とジャムおじさんは言いました。
そして、急に真剣な表情になると、アンパンマンに、
「ロールパンナを説得するのは私がやろう」
言いました。
アンパンマンは驚きました。
そしてしょくぱんまんも、
「それは無茶です!危険すぎます!」
と反対しました。
「イヤ、ロールパンナは私が作ったのだから、今回の事件の責任も私にある。私が解決する責任があるんだよ。もちろんアンパンマン、しょくぱんまんにも手伝って欲しい」
「…わかりました。でも危なくなったらすぐに逃げてくださいね」
ジャムおじさんは答えませんでした。



 ブラックロールパンナは、振りかえりました。
後ろからアンパンマンとしょくぱんまんが近づいてきたからです。
そして地上を走るアンパンマン号も見えました。
アンパンマン号の上にはジャムおじさんが顔を出していました。
「ロールパンナ!!なぜこんなことをするんだね!?」
とジャムおじさんは声をかけました。
「なぜ、だと!?そんなことも分からないのか?」
ブラックロールパンナは嗤いました。
「私はお前たちを憎んでいるからだよ!この世界のすべてが憎い!私をのけ者にし、恐れる者たち、利用しようとする者たち! そして勝手な思いを押し付けるお前たちが憎い!」
「そんなことは無いよ!私たちはみんなおまえを愛しているよ!」
「フン、愛など何の意味も無い。何の力にもならない。私には関係が無い!」
そう叫ぶとブラックロールパンナはそこらじゅうの物を壊し始めました。
「やめなさい!ロールパンナ!そんなに憎いなら、私を壊しなさい!お前を作った私こそ本当に憎い相手のはずだ!」
ブラックロールパンナはその言葉を聞くとピタリと暴れるのをやめました。
そして背中を向けたまま肩を震わせました。
笑っていたのです。
「ロール…パンナ?」
意外な行動にジャムおじさんは戸惑いました。
「何も分かっていないな…。それで私を救おうと言うのか?わかった…ジャム!お前を壊してやるよ!」
振り返ったブラックロールパンナの目には涙があふれていました。
「ロォ~ララララァッ!!」
ブラックロールパンナは渾身の力を込めリボンを振るいました。
「あぶな~い!!」
アンパンマンはすんでの所でジャムおじさんを救いました。
「ジャムおじさん、あとは僕が!」
「しかし…」
アンパンマンはジャムおじさんの言葉を最後まで聞かずに舞い上がりました。

 「ロールパンナちゃん!君の中にはまごころ草の力も!メロンジュースもまだあるはずだ!思い出して!!」
「アンパンマン…言いたいことはそれだけか?他に何も言えないのか?」
「…僕の顔には愛の花の蜜が入っている。だからわかるんだ、愛がすべての力になるって事が!!」
「…憎しみこそがすべてに勝る力だ。今からそれを証明してやる…」
「違うよ!愛こそが憎しみを消すことが出来るんだよ!」
「だったら消してみろ!このわたしの憎しみを!」
「ロールパンナちゃん!!」
ブラックロールパンナはリボンを振り回しました。
アンパンマンはリボンをかわし、アンパンチの体勢になりました。
「フン!口ではきれいごとを言っておきながら結局はアンパンチか!わたしは間違っていなかった!わたしのすべてをかけてお前を壊してやる!!」
リボンはアンパンマンめがけて恐ろしい勢いで伸びていきました。
「愛が100倍!愛のア~ンパ~ンチ!!」
アンパンマンは自分が泣いていることに気がついていました。

 まばゆい光があたりを包み込みました。

アンパンマンは自分が暗い荒野にいることに気がつきました。
「ここはどこだろう…まるでくらやみまんの世界みたいだ…」
アンパンマンが独り言を言ったとき、かすかに泣き声が聞こえてきました。
「こんなところに誰かいるのかな?」
アンパンマンが飛んでいくと一人の小さな女の子がしゃがみこんで泣いていました。
「どうしたの?おうちがわからないの?」
いつものようにやさしく声をかけたアンパンマンに、その女の子は顔を上げました。
それは小さなロールパンナでした。
「ロールパンナちゃん?!」
「アンパンマン!恐いよぅ!」
その小さなロールパンナはアンパンマンにしがみつきました。
「だいじょうぶ、僕が守ってあげるからね。だから泣かないで」
アンパンマンはやさしく抱きしめました。
そのとき、かなたから竜巻が近づいてきました。
アンパンマンは小さなロールパンナをマントでかばい、飛ばされないように必死に耐えました。
竜巻はアンパンマンの前で止まり、だんだん弱くなっていきました。
アンパンマンが顔を上げると目の前にブラックロールパンナが立っていました。
風をまとったブラックロールパンナはアンパンマンを見ていました。
「ロールパンナちゃんがふたり…」
驚いて、つい独り言を言ってしまいました。
「アンパンマン、ついて来い」
そういうとブラックロールパンナは竜巻になって先導しました。
「行かないで!一人にしないで!」
と小さなロールパンナは言いました。
アンパンマンは
「じゃあ一緒に行こうか?」
と言いました。
小さなロールパンナはアンパンマンの背中に乗り、満足そうでした。

 ついた所は奇妙なお城でした。それは岩山のようにも見えました。
ブラックロールパンナの後から一緒に城の中に入ったアンパンマンは周りを見回しました。
城の外も中も包帯でぐるぐるまきでした。
そして玉座の前に出たアンパンマンは玉座に座しているお城の主も、包帯でお城に縛り付けられていることに気がつきました。
「あなたは…?」
そこにいたのは一人の少女でした。
「わたしはロールパンナ…本当のロールパンナ…」
それは覆面をしていないロールパンナでした。
「本当の…ロールパンナ…ちゃん…?」
アンパンマンはあっけに取られていました。
ブラックロールパンナがいかにも軽蔑した口調で言いました。
「こいつがロールパンナの素顔だよ。自分ひとりじゃ何も決められない哀れで無力な小娘さ」
「アンパンマン…」
本当のロールパンナはアンパンマンに語り掛けました。
「あなたが、わたしを本当に助けたいのなら…いいえ、わたしはここから解き放されるために、あなたの…」
そういったきり本当のロールパンナはうつむいて黙ってしまいました。
「ロールパンナちゃん…」
アンパンマンは玉座に近づきました。
ブラックロールパンナは言いました。
「さっさと言えよ。自分が助かるためにお前の命をささげてくれってな」
「えっ?」
アンパンマンは立ち止まりました。
本当のロールパンナはさっと顔を上げ、
「いいえ、わたしの問題はわたしが解決するべきです。アンパンマン、こんな所にまで来てくれてありがとう。その気持ちだけでもうれしいわ」
と言いました。
「は、は、は、は」
ブラックロールパンナは神経質に嗤いました。
「やはり意味が無いな。気持ちだけでは何も出来ない。そうしてお前は、永久にそこに縛り付けられているんだな。解決か。お前はありもしない事を夢見ているだけだ」
本当のロールパンナはブラックロールパンナを睨みつけ、
「そんなこと、ないわ!…そんなこと…」
と言いましたが、その声はだんだん小さくなっていきました。
アンパンマンはその二人の言葉を聞きながら、小さなロールパンナがずっと自分にしがみついている事に気がつきました。
ロールパンナはずっとこんな冷たい世界でさまよっていたのかと思いました。
ロールパンナはとても解決できないと思える問題にたった一人で立ち向かっていたのでした。

 アンパンマンは、本当のロールパンナに聞きました。
「ロールパンナちゃん、僕の命の星があれば、君は解放されるんだね?」
本当のロールパンナは一瞬嬉しそうな顔をしてアンパンマンを見つめました。
けれども、すぐに目をそらし、首を振りました。
小さなロールパンナはきゃっと喜びの声を上げました。
「ロールパンナちゃん、受け取って」
アンパンマンは自分の身体から命の星を取り出しました。
ブラックロールパンナは
「それを渡したら、お前は死ぬんだぞ?!」とあわてたように言いました。
本当のロールパンナは言いました。
「いいえ、それは受け取れません!あなたの命はあなたの物です!」
「僕は、人の役に立つために生まれてきたんだ。ロールパンナちゃんのために出来ることは何でもできるよ」
そういって、アンパンマンはロールパンナの手を取りました。
「僕はいつもロールパンナちゃんのために最善を尽くすって決めてたんだ。ロールパンナちゃんは大切な家族だから…」
命の星は輝きを増し、二人を、そして闇に包まれていたロールパンナの心を光で満たしました。
アンパンマンは意識を失いながら、満足そうに微笑みました。

 夕方の空がまばゆい光に包まれました。
それが命の星の光だとわかったのはジャムおじさんとばいきんまんだけでした。
けれどもそこにいたみんな、その光がとてもやさしい気持ちにしてくれることはわかりました。
カレーパンマンに抱えられて戻ってきたメロンパンナには、その光が愛の光である事が感じ取れました。
メロンパンナの中のバイキン草のエキスはその光できれいに無くなってしまいました。
その光の中、アンパンマンとロールパンナはしっかりと抱きあっていました。
そして二人はゆっくり地上に降りてきました。
恐ろしいほどの静寂の中、アンパンマンはロールパンナに言いました。
「おかえり」
ロールパンナは涙ぐみながら言いました。
「ありがとう」
とても幸せそうでした。

 みんなが駆け寄ってきたとき、アンパンマンの姿はどこにもありませんでした。

 「パトロールに行ってきます」
パン工場から出て行こうとした時、二階からメロンパンナが駆け下りてきて、
「わたしも行く!」と言いました。
二人でパン工場を後にし、並んで飛んでいると、メロンパンナが言いました。
「おねえちゃん、どお?新しい生活に慣れてきた?」
「そうだな、こうしてメロンパンナと一緒にパトロールできるだけで私は幸せだ」
ロールパンナは妹に微笑みかけました。
「うふ、おねえちゃん」
メロンパンナも嬉しそうに微笑みました。
「…その…アンパンマンのことだけど…」
メロンパンナはこの半年、アンパンマンのことはロールパンナの前では話題にしていませんでした。
それは、アンパンマンの犠牲によってロールパンナが帰ってきたという事実を受け入れられなかったのだと、ロールパンナは思っていました。
「うん、あいつは本当にヒーローだったよ」
ロールパンナは素直な気持ちで言いました。
「おねえちゃんには分からないかも知れないけど、わたし寂しいの」
「アンパンマンがいなくてか?」
「うん…」
「あいつは自分の役目を果たしたんだ。そしてわたしを救ってくれた。だから私はあいつの意思を継ぐことにしたんだ。」
「うん…」
「そんな悲しそうな顔、アンパンマンは見たくないって言うと思うよ、メロンパンナ」
「そうだね…」
「あいつの命の星はわたしの中にある。あいつは今もわたしと共にあると、私は信じている。メロンパンナ、お前の心にもアンパンマンはいるだろう?」
「うん…」
「わたしたちにはみんな何かの役目がある。その役目を果たすまでは、悲しみに負けないで歩いていかなくちゃいけないんだ」
「そうだね」
「それに」
とロールパンナは言いました。
「え?」
「なんだかもうすぐまたアンパンマンに会えるような気がするんだ」
「うふ、そうだったらいいなぁ」
メロンパンナはそういって微笑みました。

 「は~ひふ~へほ~!!」
空からUFOに乗ったばいきんまんが降りてきました。
「ばいきんまん…」
「ロールパンナァ!!よくも俺様の生きがいを無くしてくれたな!!ぎったんぎったんにしてやるから覚悟しろ!!」
「ばいきんまん、もうこんなことやめにしないか?」
ロールパンナは何度目になるか知れない会話に少しうんざりして言いました。
「うるさいうるさいうるさ~い!!」
聞く耳持たないばいきんまんにロールパンナはため息をつきました。
けれどもメロンパンナは、そんなばいきんまんを見てなんだか安心したのでした。
マジックハンドで捕まえられたときも懐かしい感じがして、ロールパンナに助けを求めて叫ぶときも、なんだか顔がほころんでしまうのでした。
「ばいばいき~ん」
ローリングハリケーンで吹き飛ばされていくばいきんまんを見てメロンパンナは、
「うふふ、ばいきんまんたら相変わらずなんだから」
といたずらっ子を見るような気持ちになったのでした。

 その夜、ジャムおじさんはみんなのためにあんパンを焼いてくれました。
みんなが焼きあがるのを楽しみにしていると、流れ星が煙突から釜の中に落ちてきました。
激しく明滅する釜のふたを見つめながら、ロールパンナはメロンパンナに言いました。
「ほら、わたしが言ったとおりだろう?」
メロンパンナは大きな声で
「そうだね!!」
とロールパンナの腕に抱きつきました。

パン工場の上ではキラキラ星がキラリと光りました。